外出先などPCに座れない時は昨年12月に購入したraytrektab(DG-D10IWP2)で描いています。Surface Pro2→Cube mix Plus→MateBook m3を経て4台目のお絵描きタブレットPCです。
使用して3ヶ月経ったので備忘録も兼ねて感想でも。前提として管理人は、
- ある程度液タブやお絵描きタブレットPCに慣れている
- デジタルイラスト作成はWindows OS搭載の端末で行っている
- お絵描きは趣味。作品はほぼWeb上で公開しているのみ
- タブレットPCはサブ。一度の作業時間は約2時間まで
- 使用ペイントソフトはCLIP STUDIO PAINTのみ(バージョンはEX)
- 周辺機器やアクセサリー類は大体歴代タブレットPCからの流用
といった具合です。その辺りの目線での感想となりますのでご了承下さい。先に断っておくと長いです。
購入の経緯
発表時から欲しいなーと思っていたものの、当時既にMateBookを使用していた事から見送っていました。
しばらくMateBookをサブPCとして使っていましたが、電源が急に落ちたりと不具合の頻度が昨年11月辺りから増加(購入当初から不安定だったので初期不良品だったのかも)。いよいよ作業が儘ならなくなり買い換えを決めました。
店頭で試した三菱鉛筆9800デジタイザーペンの描き心地が最高だった事もあり即決。
どんなタブレットか
raytrektab(DG-D10IWP2)はドスパラから発売されたイラスト制作特化のタブレットPCシリーズの最新版です。
前作DG-D10IWPとの違いは、CPU性能(+内蔵グラフィックボード性能)のアップとWindows10 HomeからProへの変更された事のふたつ。個人的に良かったのが後者の変更です。
Pro版はWindows Updateを任意のタイミングに設定する事ができます。この設定をしておく事でバックグラウンドで更新が始まって急に重くなったり再起動されて作業がパーになる事態を防ぐ事ができます。
ベゼルは 横約1cm×2、縦は指紋認証エリアもあり約2cm×2とやや大きめですがお絵描き用途だとむしろメリット。背面に手を回すにしても画面に指がかかってしまうので、ベゼルレスだと誤タッチしてしまうので多少ある方がありがたい。
液晶サイズは10.1インチでオフィスソフトがぎりぎり無料で使えるサイズ。画面比率は16:10で縦持ちでの細長さは抑えられています。画面下側の指紋認証エリアもあって私はほぼ左側を上にした縦持ちで使っています。
デジタイザーの方式はWacom feel IT technologiesの電磁誘導方式(EMR)。専用のセンサーユニットを画面の下に仕込むため、液晶サイズに対して筐体が厚く重め。
ガラスの厚みでペン先とカーソルの間に物理的な隙間がほんの少しありますが、付属のペンが細いので余計に大きく見えてしまう所はあります。
自分は気になりませんが、これは実際に使わないといいか悪いかの判断が難しいかもしれません。
詳細なスペックは公式サイトや、より専門的にレビューされているサイト様を見て頂いた方がいいと思います(丸投げ)
良かった所
描き心地が最高
自分が今まで使用してきたデジタルお絵描きツールでも一番良かったです。
EMRであるためペンが電池レスで軽量な上に低遅延・高精度。シャカシャカとペンを動かしてもカーソルが遅れず、未調整でも傾きによるカーソルのズレもほぼありません。
A4・350dpiのキャンバスサイズ(2894×4093)だとレイヤー数やカラー・モノクロかでも変わりますが、べた塗りペン等のマーカー系ブラシはブラシサイズ400、油彩筆等の重めのブラシは300までならさくさく描写されます。
普段はブラシもキャンバスももっと小さいサイズで描くのでもう少し軽快に動きます。さすがにグラデーションマップを使いだすと若干処理落ちはありますが許容範囲内。
パームリジェクションも優秀。きちんと測っていないですが、画面からペンが1cm程度浮いていても効いている気がします。二本指グローブと合わせて使うと誤動作はごく僅かに抑えられます。
何よりエラストマー芯が使えるのがありがたい。エラストマー芯の摩擦が強く粘り気のある描き味がお気に入りなのでこれが使えるのは大きいです。
それとEMRは同じ形式のペンならある程度の互換性があるので、標準ペンやコラボペンの他にも8インチ版のペンも使えます。EMRペンはそこそこ種類があるので別途用意して試すのも面白いと思います。自分はLAMY(主に万年筆を作っている文房具メーカー)製EMRペンも合わせて使っています。旧式ペンも使えますが、画面端でのカーソルズレが大きくなるので注意。
傾き検知をする
実はこの製品、公式では言及されていませんが傾き検知機能を搭載しています。付属の標準ペンやコラボペンはもちろん、既に持っていた旧式のEMRペン(Cube Mix Plusと一緒に買った良く分からないEMRペン)でも反応したので本体側で対応しているようです。
クリスタで傾き検知オンのブラシ(デフォルトブラシのデッサン鉛筆など)で試すときちんと反映されます。クリスタの場合ブラシごとに傾き検知の設定をする手間はありますが、鉛筆ブラシやチョークブラシなどでデッサンのような使い方も可能です。
傾き検知自体は重めの機能なので描き始めは少し読み込みがありますが、線が引かれたら以降は遅延なく使う事ができます。
これのお陰でクロッキー帳でしていた毎日クロッキーを完全デジタル移行できました。デジタルでの管理が楽ちん。
三菱鉛筆9800デジタイザーペンがすごい
私がDG-D10IWP2を買う決め手になったペン。 これが本当に素晴らしい。
DG-D10IWP2からセットで付いてくるようになったこちらのペンは、サードウェーブ(ドスパラの経営元)と三菱鉛筆がコラボして作られたEMR対応のデジタイザーペンです。
見た目は六角形の鉛筆そのもので軸は木製、長さは約14cm。大体「使い続けて何度か削った鉛筆」ぐらいの感覚です。
芯の素材はエラストマー芯のみですが芯交換可能(替え芯は別売り)。ペン先が細く滑りが良く、それでいてエラストマーの摩擦もしっかりあります。鉛筆をデジタルで再現するとこんな感じなんだなあ。ペーパーライクフィルムと合わせて使うと紙と鉛筆のそれです。
あと、ペン先以外の見た目は完全に鉛筆なので鉛筆用のアクセサリーも使用可能です。グリップを付けたりキャップを付けたりできます。
気になった所
標準ペンの扱いが難しい
raytrektabには標準のデジタイザーペンが付いてきますが、10インチ版のものは独特の作りになっています。ペン全体は約18cm(ノック部分含む)と長め。
見た目はノック式のボールペンタイプで円柱型。ペンのお尻を押すとペン先が完全に引っ込みます。これでキャップ不要でペン先は完全に保護され、押し込みによるペン先の沈み込みや揺れは全くないです。
感触はWacomのポリアセタール芯(通常芯)のようにツルツルした感じで固め。他のペンと大分勝手が違うので筆圧調整はしておいた方がいいかもしれません。
ただペン先の交換が不可になったため、ペン先をフェルトやエラストマーなどの素材芯に変える事もできません。また、ペン先が削れて描けなくなった場合はペンごと買い替えるしかありません。その点もご注意。これにペーパーライクフィルムは怖くて使えない…
タッチ操作は固め
ペン操作は快適そのものな一方タッチの操作は固めです。感度もスマホ感覚のそっと触ったぐらいの力加減では反応してくれない事もしばしば。ネットサーフィンぐらいならそこまででもないですが、お絵描き用途には厳しいかもしれません。
例えが難しいですが、2本指でのピンチイン・アウトによる拡大縮小操作だと、スマホやその他モバイル端末が「2本指でピンチイン・アウト→拡大縮小」ならraytrektabは「2本指で触れる→ピンチイン・アウト→拡大縮小」と間で1~2工程分かれる感じです。お分かりいただけるだろうか。
タッチ⇔ペン間のシームレスなツール切り替えが難しいので、キャンバス移動や拡大縮小・回転はキーボードや左手デバイスと併用した方がやりやすいと思います。
自分はキャンバス操作は左手デバイスで、タッチはシングルスワイプの設定を消しゴムに変えて広範囲で消したい時に使っています。
時々不具合がある
使用中突然ペン操作を受け付けなくなる不具合が発生する事があります(タッチ操作は可)。自分が出会ったケースは全てデバイスマネージャー内のI2C HID デバイスにてエラー10が発生していました。
エラーが発生する原因は未だに不明なため、報告の多さの割に予防もできず再現も難しい厄介なもの。再起動やシャットダウンしてしばらく放置すると元に戻る事も多いので、修理に出しても同様の症状が出ないとされて返送→エラー再発といった悪夢のようなループにハマる事も。
現状では発生を防ぐ事はできませんが、対処方法はいくらかあるので自分が知っているものを参考までに。ただしHIDデバイスをいじる方法はその過程でタッチ操作も受け付けなくなってしまうものもあるので必ずマウスを用意する事(できれば有線)
これでダメなら素直に修理に出しましょう。
余談ですが、自分の環境では高速スタートアップをオフにする事で頻度が低下、発生時もシャットダウンで早期復帰可能になりました。関係があるか不明ですが、参考になれば。
- PCを再起動またはシャットダウンする
- I2C HID デバイス他HIDデバイス(HID準拠タッチスクリーンなど)のドライバーを更新する
- I2C HID デバイス他HIDデバイス(HID準拠タッチスクリーンなど)のドライバーの有効・無効の切り替えを繰り返す
- I2C HID デバイス他HIDデバイス(HID準拠タッチスクリーンなど)のドライバーをアンインストールし配布サイトから再インストール→再起動
最初にやっておいた方がいい設定とか
スペックアップしたとはいえ、DG-D10IWP2の性能は控えめな方です。一方でデフォルトでは裏でメモリやCPUを多く使う設定なので、とにかく動作がもっさり気味。
また作業エリアもデスクトップ環境等に比べると小さめなので、少しでも広く使えるようレイアウトも工夫する必要があります。
「最低限ここはいじった方がいいかも」と思った所も軽くメモしておきます。
電源プランの変更
raytrektabは初期状態だと省電力寄りに設定されています。このままだと特にバッテリー駆動時の挙動が抑えられてしまうので、これをパフォーマンス優先に変更します。
といっても私がやったのは「電源オプション」→「電源プランの作成」から「高パフォーマンス」を選択しただけです。プラン名やディスプレイの電源を切る時間・スリープ状態にする時間は使いやすいものでOK。
パフォーマンスと引き換えにバッテリーの消費が速くなりますが、自分の用途では特に問題なし。
それと「電源オプション」で高速スタートアップのオンオフを設定できますが、これが原因での不具合も結構多いので切っておいた方がいいです(初期設定は失念しました)。オンにすると確かに起動は早くなりますが(オフ時に比べて1~2秒程早くなる?)、10インチ版はSSDなので無くても十分早いです。手順は以下の通り。
- 「電源オプション」から「電源ボタンの動作を選択する」
- 「現在利用可能ではない設定を変更します(要管理者権限)」
- 「高速スタートアップを有効にする(推奨)」のチェックを(あれば)外す
- 変更の保存
これで完了。
私はこれに加えて電源ボタンの挙動をスリープからシャットダウンに切り替えています。上記の不具合が起こった時にワンボタンでシャットダウン→再起動で復活しやすくなります。うっかりシャットダウンしてしまう事故も起こりかねないのでこの辺りはお好みで。
バックグラウンドアプリの停止
Windows10には自動起動して裏側で常に実行されているアプリが多数あります。これが初期状態だと全て起動・実行を許可されており、メモリを多く消費しPCの挙動を遅くさせる事が多々あります。
- Windows10の「設定」を開く
- 「プライバシー」を開く
- 左メニューから「バックグラウンドアプリ」を選択
これでバックグラウンドで実行するアプリの管理画面を開きます。私はセキュリティソフト以外は全て外しています。今の所これで問題なし。
OnedriveやDropboxなどのオンラインストレージも結構メモリやCPUを使うので、同期するファイルを限定したり使う時だけ起動してすぐ停止するのが無難かと。
Onedriveといえば、クリスタ等のインストール先は大抵ドキュメントフォルダになっていると思いますが、初期状態だとOnedriveで同期される設定になっています。その場合、ドキュメントとOnedriveとの同期設定を予め切っておかないと後々面倒な事になります。本当に面倒くさい事になります。
カーソル位置の調整
こちらはデフォルト設定でもズレはあまりないですが、もしズレがあってそれが気になる場合はWindows10の標準機能で簡単な調整ができます。
コントロールパネルから「タブレットPC」→「調整」で16点での調整画面が表示されます。ペンと画面との角度が垂直にならないよう、普段使う角度で調整するといい感じです。
ただし一度調整画面に入ると調整を最後までやるか、キーボードでEscキーを押さないと離脱できないので注意。調整中はタッチキーボードも使えないので別途キーボードを用意しておくと安心です。
クリスタでの設定
取り消し(アンドゥ)回数を減らす
クリスタのファイル→環境設定→パフォーマンスにて取り消し回数の設定を編集する事ができます。こちらは初期状態だとMAX値の200回になっています。
ここの回数が多いとかなり前までやり直す事ができる一方、ログもその分多く溜まり、メモリを消費してしまいます。
なので自分が不便に感じない程度に回数を少なくしておきます。ちなみに私は15回にしています。
作業エリアの確保
raytrektabはWindowsなのでソフトの使い勝手はPC版のそれです。逆に言うとタブレットPC向けに調整されていないため、初期設定だと作業エリアが狭いです。
サブツールの表示方法(初期状態:ストローク)をタイルまたはタイル(小)にするだけでもスペースの節約になります。
ツールウィンドウも基本的に非表示にして、使うときだけ呼び出すといった使い方になると思います。クイックアクセスや左手デバイス類は必須といっていいです。
とはいえ個人の好みや使い方でも変わるので、とりあえず運用してみて使いやすい構成を見つけるのが一番かと。
感想まとめ
とにかくペンの反応がよく、追随性も描画も優秀で思った通りの場所に線を引くことができます。ペンや本体を傾けてもズレる事もほとんどありません。SSD搭載&指紋認証で起動も速く快適の一言。
Windows機なのでクリスタも買い切り、既に持っていればそのまま使える点も良し。
10.1インチなので作業での取り回しもよく作業スペースも設定次第で広くできます。重量は多少ありますが携帯も楽。毎日クロッキーのよきお供、今年に入ってからの絵はほとんどこれで描いています。
クリスタに特化した仕様ですが、その他ペイントソフトもWindows10対応&TabletPC APIが扱えるものなら使用可能です(ソフト自体の推奨スペックは要確認)。動作保証外ですがSAI2も使えるようです。(無印SAIは不可)
ただWindows機故に最初の設定が面倒な事、タッチジェスチャーが固い事、対処可能なもののペンが効かなくなる不具合があるのでそこを許容できるかでも評価が割れると思います。
長すぎるので割愛しましたが、やっておいた方がいい設定もセキュリティソフトの除外設定やタスクバーの調整など色々あります。「クリスタ 軽量化」「Windows 高速化」で検索すると動作の軽量化に効果的な設定が紹介されているので探してみてください(丸投げ二度目)